103万の壁を撤廃するとして多くの国民に支持され先の総選挙で大幅に躍進した国民民主党。しかし、ここに来て金融所得課税の強化案を掲げた。この動きは、国民の経済的な負担軽減を目指していたはずの同党の姿勢と矛盾するものに映る。なぜ国民民主党はこのような方向転換を図ったのか。そして、この政策がもたらす影響はどのようなものなのかを考えてみた。
103万の壁撤廃と国民の期待
103万の壁とは、パートやアルバイトで働く人が年収103万円を超えると所得税が発生するため、多くの労働者が労働時間を抑える現象のことを指す。この制度は特に主婦層や非正規労働者に影響を与え、労働力不足の一因にもなっていた。
国民民主党は、この103万の壁の撤廃を公約に掲げ、多くの労働者や企業から支持を得た。特に、労働市場の活性化や所得向上の観点から、この政策は前向きに受け止められていたように思う。政府・与党が慎重姿勢を見せる中で、国民民主党は「経済を回すための改革」としてこの政策を推進し、財務省の財政規律重視の姿勢とも一線を画していた。
しかし、その国民民主党が今、金融所得課税の強化という別の政策を打ち出したことで、支持者の間に動揺が広がっている。
金融所得課税の強化とは何か
金融所得課税とは、株式や投資信託などの金融資産から得られる利益(配当・譲渡益など)にかかる税金のことだ。現在、日本では金融所得に対して約20%の税率が適用されているが、国民民主党はこの税率を引き上げる方向での議論を進めている。
これには一定の理屈がある。高所得者ほど金融資産を多く持ち、投資による利益を得やすいため、「所得税の累進課税と比べて負担が軽いのではないか」という批判が以前からあった。特に、労働所得にかかる税率が高いのに比べ、投資で得た利益の税率が一律であることが「格差を助長する」との指摘もある。
しかし、この金融所得課税の強化は、本当に国民のためになるのだろうか。
金融所得課税強化がもたらす影響
金融所得課税を強化すると、最も大きな影響を受けるのは、富裕層だけではない。むしろ、近年投資を始めた一般の個人投資家や、老後資産を運用している高齢者層が大きな打撃を受ける可能性がある。
2024年の新NISA拡充により、日本でも投資が身近なものとなり、若年層を中心に資産運用への関心が高まっている。特に「貯蓄から投資へ」の流れが加速しつつある中で、金融所得課税を引き上げることは、この動きに歯止めをかけてしまうものになるだろう。
国民民主党はこれまで財務省の影響力に対して批判的な立場を取ってきたが、金融所得課税の強化は財務省の財政規律重視の方針に沿うものでもある。財務省は以前から「金融所得課税の引き上げ」を求めており、今回の国民民主党の方針転換は、結果的に財務省の意向に沿った形となる。
国民民主党の「変化」は何を意味するのか
この政策変更は、国民民主党の「現実路線」へのシフトなのかもしれない。103万の壁撤廃は、労働市場の活性化を目的とした「経済成長」志向の政策であったが、一方で金融所得課税の強化は「財政再建」志向の政策に見える。この二つの政策は、方向性としてやや矛盾しており、国民民主党のスタンスが変化しつつあることを示唆している。
また、国民民主党が金融所得課税の強化を打ち出した背景には、「財源確保」の問題がある可能性が高い。103万の壁を撤廃すれば、社会保険料の徴収額に変化が生じるため、政府としてはどこかで財源を補填する必要がある。金融所得課税の強化は、その穴埋めとして考えられているのかもしれない。
しかし、国民の視点から見れば、「労働者の手取りを増やす」と言いながら、投資による収入を削るという矛盾した政策に映る。これは、特に資産形成を進めたい若年層や、退職後の資産運用を考えるシニア層の反発を招く可能性が高い。
まとめ
103万の壁撤廃を掲げ、多くの支持を集めた国民民主党。しかし、金融所得課税の強化という新たな政策を打ち出したことで、その一貫性が問われる状況になっている。
本来、労働市場の活性化と資産形成の促進は、経済成長の観点からどちらも重要なテーマである。もし国民民主党が「働く人の所得を増やす」ことを本気で考えるのであれば、金融所得課税の強化ではなく、投資を促進する制度改革に目を向けるべきではないだろうか。
財務省の影響力を抑えると言いながら、結果的にその方針に歩み寄る形となった国民民主党。これが単なる「政策のバランス調整」なのか、それとも「財政再建路線への転換」なのか。今後の動向を慎重に見極める必要があるだろう。