やはり、両者の溝は埋まらなかった。三菱が交渉のテーブルから降りた時から、今回の結末は予見されていたのかもしれない。
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提携案の始まりと三菱の離脱
ホンダと日産の提携案は、もともと三菱自動車を含めた三社での協力体制を構築する計画だった。日産はルノーとの関係を調整する中で、新たな戦略的パートナーを求めており、EV市場での競争力を高めるためにホンダとの提携を模索した。一方、三菱は日産とアライアンスを組んでいたが、経営戦略の違いや開発方針のズレがあり、最終的には交渉のテーブルから降りた形だ。
三菱の離脱後もホンダと日産の交渉は続けられたものの、両社の根本的な開発方針の違いが浮き彫りになり、最終的に合意には至らなかった。
ホンダの狙い:独自路線の維持
ホンダはこれまで、独自の電動化戦略を推し進めてきた。EV(電気自動車)や水素燃料電池車の開発を進め、他メーカーとは異なる技術開発の方向性を貫いてきた。また、GM(ゼネラルモーターズ)との提携もあり、EVプラットフォームの開発では既に一定の基盤を築いている。このような背景から、日産との提携は技術的な重複が多く、実はホンダにとって大きなメリットは少なかった。
さらに、ホンダは「独立した開発力」を強みとしてきた企業であり、大規模なアライアンスへの参加には慎重な姿勢を崩していない。提携によるコスト削減のメリットはあるにせよ、独自技術を手放すリスクを冒すほどの価値はなかったと判断したのだろう。
日産の思惑:提携によるスケールメリット
一方の日産は、ホンダとの提携によってEV開発の負担を軽減し、スケールメリットを追求しようとしていた。特に、ルノーとの関係が変化しつつある中で、新たなパートナーを求める必要があった。日産は「アライアンス戦略」を取ってきた企業であり、単独での技術開発よりも他社との協業を重視する傾向が強い。
EV市場ではトヨタやテスラが先行しており、開発競争は激化している。その中で、ホンダとの提携は日産にとって大きな助けとなる可能性があった。しかし、ホンダ側が独立路線を貫いたことで、両者の交渉は合意に至らなかった。
交渉決裂の背景:理念と戦略の違い、時価総額の差、経営構造の問題
最大の障壁は、両社の企業理念と戦略の違いにあった。
- ホンダ:独立志向が強く、独自開発を重視する
- 日産:提携を活かしてスケールメリットを追求する
さらに、時価総額の違いも無視できない。ホンダの時価総額は約7兆円に対し、日産は約2兆円と、その規模に大きな差がある。これは市場がホンダの独自開発力を評価している証拠であり、一方で日産が過去の経営問題やルノーとの関係によって市場の信頼を失っていることを示している。
加えて、日産の経営構造の問題も交渉決裂の要因となった。日産はエグゼクティブ・コミッティ(EC)の12人や執行役員40人を抱えており、経営陣のスリム化がホンダの求める水準に達していなかった。ホンダは、効率的な経営体制を求めており、大規模な人員整理を含む構造改革を期待していたが、日産の対応は不十分に写ったのだろう。このため、ホンダにとっては、日産の経営効率の悪さが提携の障害になったとも言える。
今後の展望と業界への影響
ホンダは今後も独自路線を維持しつつ、GMやソニーとの連携を強化しながら電動化を推進していくだろう。
一方、日産は今後どのような戦略を描くのか。ルノーとの関係を再構築しつつも、EV市場での競争力を高めるために新たな技術開発パートナーを探す必要がある。しかし、これまでの経営迷走と市場での信頼低下を考えれば、簡単に適切な提携先を見つけるのは困難だろう。
その中で、日産は台湾のホンハイ(Foxconn)との連携も噂されている。ホンハイは電気自動車の生産に力を入れており、アップルのEV開発計画とも関わりがあるとされる。日産にとってホンハイとの提携は、EV開発コストの削減や生産能力の向上につながる可能性がある。しかし、ホンハイは自社ブランドのEV開発を進める動きもあり、日産との協業がどのような形になるかは不透明だ。
また、日産は既存のEV「リーフ」シリーズの技術強化や、アリアなどの新型EVモデルの販売拡大を図る戦略を推進するとみられる。しかし、競争が激化する中で、技術的な優位性を維持しながら販売拡大を成功させるには、過去のような戦略の甘さは許されない。
今回の交渉決裂は、日本の自動車業界全体にとっても象徴的な出来事だ。国内メーカー同士の提携が難しくなっている中で、各社がどのような戦略を選択するのかが、今後の競争に大きく影響を与えるだろう。
ホンダと日産、それぞれが異なる道を選んだ先に何が待っているのか。今後の動向に注目したい。