2024年秋、スーパーの陳列棚から米が消えた。SNSには「どこに行っても米がない」「値段が高すぎる」といった声が相次ぎ、日本は令和の米騒動とも呼ぶべき事態に直面した。
米価の急騰
東京都区部におけるコシヒカリ5kgの店頭価格は、2023年12月時点で2,422円だったものが、2024年12月には4,018円に跳ね上がった。1年で約1.68倍だ。他地域でも5kgあたり3,500〜4,000円に達し、前年より1,000〜1,500円高い水準となった。原因は、猛暑による不作、生産調整、物流コスト上昇など複合的な要因が絡み合い、米価は急騰した。
コメの流通経路と在庫管理
コメは毎年秋に収穫され、1年分を確保した上で市場に流れる。収穫後、農家からJAや卸業者を経由し、精米業者を通して小売店に届く。この間、各段階で在庫は抱えられるが、必要最小限にとどめるのが近年の常識となっている。その背景には、長年続いたコメ余りの構造がある。特に1970年以降、政府は減反政策を進め、生産量を制限することで価格維持を図ってきた。農家は補助金と引き換えに生産を抑え、流通側も大量在庫を抱えることなく需給バランスを保つ手法が定着した。
減反政策の歴史的背景と影響

日本の稲作政策には、戦後から一貫して続く「農業政策の失策」とも言える歴史がある。その起点となったのは、GHQによる農地改革だ。第二次世界大戦後、GHQ主導の下で日本の農地解放が進められ、大地主制度は解体された。自作農中心の農業体制に移行し、食糧増産によって国民の飢えをしのぐことが最優先事項だった。しかし、その後の高度経済成長に伴い、食糧事情が安定すると、今度は「米余り」が深刻化した。こうした中で1970年に導入されたのが減反政策である。農家に作付けを控えさせ、供給を抑制することで米価安定を図った。背景には、農業所得の下支えと、農村地域を維持する狙いがあった。だが、この政策は、生産者の生活安定と農村保護を目的とする一方で、副作用も顕著だった。農家の生産意欲は低下し、農地は細分化され、大規模化が進まなかった。その結果、国際競争力も低下し、不作時には即座に供給不足が露呈する体質が生まれた。減反維持のために投入された補助金は累計で7兆円を超える。財政負担を伴いながら、過去のコメ余りに基づく制度を維持し続けたツケが、令和の米騒動として表面化したとも言える。
政府の備蓄政策とその課題
政府は食糧安全保障の観点から、備蓄米制度を設けている。年間約100万トンを確保し、3〜5年で入れ替えを行う循環備蓄方式だ。不作や災害時に放出することで市場混乱を防ぐ役割を担う。今回の米騒動では、22万トンの備蓄米を市場に供給し、価格高騰の沈静化を図る。一定の効果は見込まれるが、あくまで一時的なカンフル剤に過ぎない。本質的な供給力不足は変わらず、備蓄米だけで危機に備えられる状況ではない。仮に備蓄米が底を突いた場合、事態は一層深刻化する。市場に供給できる緊急在庫がなくなれば、価格暴騰と買い占めパニックが発生する可能性が高い。加えて、不作や災害が重なれば、長期的に米が手に入らない家庭も出てくるだろう。最終的には、輸入米への依存が避けられなくなる。しかし、日本人が好む高品質米を短期間で大量に確保することは難しく、品質低下や価格高騰は避けられない。1993年のタイ米騒動が再来する恐れすらある。さらに、生産現場にも混乱が及ぶ。市場の混乱が続けば、生産現場に「もう米は作れない」と見切りをつける農家が続出し、離農が加速する危険性も否定できない。備蓄米制度は、単なる価格安定策ではなく、日本の食料安全保障の最後の砦である。
日本の農業が直面する課題を解決し、持続可能な発展を遂げるためには、以下の改善策が考えられる。
1. 農業の大規模化と法人化の推進
農業人口の減少と高齢化が進む中、農地の集約化と経営の大規模化が求められている。これにより、生産効率の向上やコスト削減が可能となる。農地中間管理機構の活用や、農業経営の法人化を促進する政策支援が必要である。
2. スマート農業技術の導入
ICTやロボット技術を活用したスマート農業の推進により、生産性の向上や労働力不足の解消が期待できる。栽培管理支援システムや自動化機械の導入を支援することで、効率的な農業経営を実現する。
3. 農産物の高付加価値化とブランド化
農産物に高付加価値を付け、ブランド化を進めることで、収益性の向上が図れる。地域の特産品や独自の農法を活かし、消費者に訴求する商品開発とマーケティング戦略が重要である。
4. 若手農業者の育成と支援
農業の持続可能性を確保するためには、若手農業者の育成と支援が不可欠である。農業経営のノウハウ提供や資金援助、就農支援策の充実を図り、次世代の農業リーダーを育成する。
5. 持続可能な農業への転換
環境保全と調和した農業を推進し、持続可能な生産体系への転換を図る。具体的には、土壌改良や水資源の適切な管理、生物多様性の保全など、環境に配慮した農業技術の導入と普及が求められる。
これらの施策を総合的に推進することで、日本の農業は持続可能な発展を遂げ、食料安全保障の強化にも寄与するだろう。