──貯蓄信仰からの転換
2024年、NISAが拡充され、新NISAとして生まれ変わった。それまで投資に後ろ向きだった人も投資を始めるきっかけとなる大きな転換期となった。日本人にとって、のちに「投資元年」と呼ばれる一年となったことだろう。
これまで日本では、「貯金こそ正義」「投資は一部のお金持ちがするもの」といった価値観が根強く残っていた。これは戦後の高度経済成長期、そしてバブル崩壊後の「失われた30年」を経てもなお、日本社会に染みついていた考え方だ。しかし、近年の物価上昇や年金制度への不安が背景にあり、ついにこの価値観に変化が訪れた。2024年の新NISA制度の導入は、こうした「貯蓄信仰」から「資産運用」への転換を加速させる大きなきっかけとなった。
新NISAの最大の特徴は、年間の非課税投資枠が大幅に拡充され、制度が恒久化されたことだ。これにより、多くの日本人が「どうせ銀行に預けても増えないなら、NISAを活用してみよう」と考えるようになった。特に、これまで投資に慎重だった高齢層が「老後資金対策」として関心を持ち始めたことが大きい。さらに、SNSやYouTubeを通じて、20代や30代の若い世代が「長期・分散・積立」の考え方を学び、投資を始めるケースも急増している。
もはや「銀行に預ける=安心」ではなく、「お金を動かさない=機会損失」という考え方が広まりつつあるのだ。
こうした変化は、単なる制度改正の影響にとどまらない。背景には、日本社会の価値観そのものが変わりつつあるという側面がある。これまでは、仕事をして安定収入を得ることが「正しい生き方」とされてきた。しかし、終身雇用が揺らぎ、副業やフリーランスといった新しい働き方が当たり前になりつつある今、「資産を増やす手段」としての投資が自然と選択肢に入るようになったのだ。
また、投資の広がりとともに、日本人の「お金を使う」意識にも変化が見られる。従来、日本人は「節約」を重視し、お金を極力使わずに貯め込む傾向があった。しかし、インフレの進行とともに、「今あるお金をどう活用するか」を考える人が増えてきている。たとえば、単にモノを買うだけでなく、自己投資や経験への支出を重視する動きも強まっている。投資もその一環として、「未来のための支出」として受け入れられ始めているのかもしれない。
もちろん、投資を始める人が増えたからといって、すべてが順風満帆なわけではない。知識不足のまま投資を始めると、大きな損失を抱えるリスクもある。特に、「投資ブーム」に乗って短期的な値上がりを狙った投機的な動きをする人も増えており、注意が必要だ。資産運用は長期的な視点が重要であり、「一攫千金を狙う」のではなく、「じっくり育てる」意識を持つことが求められる。
2024年は、日本人の投資意識が大きく変わるターニングポイントとなる年だ。貯蓄から投資へ、そして「お金をただ持つ」から「お金をどう使うか」を考える時代へ。こうした価値観の変化が、日本経済にどのような影響を与えていくのか。これからの社会の動向を見極めつつ、「投資元年」の先にある未来を探っていきたい。